2011/02/10

新メカニズムのお話~その2 -オリジナル・メカニズム-

 先ごろ、東方MWSは大きな変化を遂げた新環境をリリースいたしました。他人事の様な口ぶりですが共犯として拙作を投稿した身である私自身、きちんと把握していなかった部分のカード性能もあり、沢山の新しいカードを眺めるのに心踊らされております。
 
 さて、東方MWSのデザインについてのお話。この記事は、私の前回の投稿から引き続き、本企画オリジナルの新メカニズムについてです。
 前回は、実装されなかった《急襲》について記述いたしました。今回は、これまた実装されなかった、《撮影》というキーワード能力について(この失敗案は、今度は筆者が勝手に考え勝手に没ったキーワード能力です)、そして本家の成功と、東方に実装されている何と"オリジナルのキーワード能力"です。


 『《撮影》と《連繋》』
 
 《撮影》のアイディアは、本家のメカニズム考案同様?私の走り書きのメモから始まった。
 『あるクリーチャーの能力の一部を、一瞬切り取って使用するメカニズム。』
 という、文花帖そのままのコンセプトから導かれたアイディアに符合したのは、本家で言うなら、墓地のクリーチャーを1ターンだけ蘇らせる《蘇生》。そして、一瞬だけクリーチャーを戦場に出し、一部の能力だけを利用出来る《想起》だ。
 フレイバー先行でデザインされたテキストに調整を繰り返し、ルール・テキストはおおよそ以下の様なものだった。

・ルール702.X 撮影 / Shoot (*非実在能力)
 702.Xa 撮影はカードの持つ誘発型能力である。撮影 N / Shoot N は、「あなたがこの呪文を唱えたとき、いずれかの墓地にある点数で見たマナ・コストがN以下であるクリーチャー・カード1枚を対象とし、それをあなたのコントロール下で戦場に戻す。その後、そのクリーチャーを生け贄に捧げる。」を意味する。
 
 『ヒキコモリ的メカニズム』として有名な神河の連繋―秘儀は、そのよくない部分を典型的に説明した。
 連繋呪文も秘儀呪文も、それぞれ、連繋・秘儀である恩恵がある故に、通常の同種の能力を持つカードよりもコストが高めに設定されたり、柔軟性が低く調整される。それゆえに、連繋・秘儀である事の恩恵を受けねば、デッキに入れる価値が無い。したがって、連繋呪文を1枚入れれば、必然的に秘儀呪文を投入したくなる。そうすれば、その秘儀の為に連繋を、その連繋の為に秘儀を。
 他のカードや機能には目もくれず、自分達の間だけでシナジーを形成し、どんどんどんどん狭い範囲のカードだけでデッキを構築せざるをえなくなる。後方互換性・他のセットやカードとのつながりが全くもてなくなる。これはもうマジックじゃない。マジックとよく似た、連繋―秘儀・ザ・ギャザリングだ。
 
 《撮影》は、わかり易く言えば墓地にあるクリーチャーのEtb能力とPig能力を使い回す能力だ。賢明な読者諸兄は既に《撮影》が使い物にならない事に気づかれただろう。これには、《撮影》出来る『被写体』クリーチャーをデッキに入れる必要がある。こういうカードは多い様に思われるかもしれないが、実は誘発型能力の極一部で、しかもマナ・コストまで限定されている。(私の中では、一時《被写体》をもつクリーチャーを作り特異的に参照させる案まであった。)
 何より、追加で得られる効果が大きすぎるために、《撮影》呪文は、通常のカードより多くのコストを必要としたのだ。まさしく秘儀呪文。《蘇生》と《想起》を参考にしたつもりが、《連繋》と《秘儀》のそっくりさんになっていた。悪いとこどりに近い。全く愚かで勉強不足であったと猛省している。単体のカードデザインについても、変に本家のアイディアの一部を借りてこようとすると、こうなる事があるのだ。
 神河は、フレイバーが先行したデザインが行われたというが、同じ道をたどったのかもしれない。《蘇生》と《想起》、そして《連繋》が示唆している教訓の一つは、『独立した呪文同士でやりたい事は1枚にまとめろ。』という事だろう。《蘇生》も《想起》も、1枚で完結している事がミソだったらしい。《撮影》出来るカードは1枚作ってもいいが、複数枚で撮影するためのカードゲームを作ってはいけない。撮影・ザ・ギャザリングを求めているプレイヤーはいない。
 私は、脳内曲折の末、自らこの能力のアイディアを全面的に破棄した。既に問題点が発覚しているアイディアに固執し、"救済"しようとこねくり回すと絶対ロクなことにならない。
 

 『成功したメカニズム』
 
 新メカニズム制作について二つの失敗について語ってきたが、それは成功へと結びつける材料にできなくては意味が無い。
 
 デッキを組み、シャッフルして、ダイスを振る。
 何かわからない手札を7枚引いて、土地を出し、呪文を唱える。
 ターンが回ってきたら、パーマネントをアンタップし、アップキープを経て、何かわからないカードを引く。クリーチャーで攻撃し、土地を出したり、それをタップしてマナを引きだし、さらなる呪文を唱える。
 唱えられた呪文や破壊されたパーマネントを墓地へ積み上げる。徐々に互いのライフが削られて行く。
 
 前回も紹介したマジックのごく基本的なゲームの流れだが、本家のメカニズムで成功と言える物を見ていくと、これらに自然にフィットしている物が殆どだ。

 《上陸》土地を出す事を扱ったゼンディガーの能力語《上陸》は非常に幅広い可能性を見せたが、土地の持つ可能性の危険を危惧したらしい本家は第三のエキスパンションを制作せず、それと互換性を持ったテーマの非常に完成度の高いエキスパンションを世に送り出した。
 
 《占術》《サイクリング》二つのドローに関する少し毛色の違う能力。《占術》は並べ替えカードの弱い点を克服する形で作られ、ドローの無作為性にほんの少しだけ介入し、デッキの可能性やマナの安定性に寄与した。サイクリングは失敗を経ながら改良され、マナ基盤を安定させたり、デザインや戦術の可能性を広げたり、それの持つデザイン的空間を活用されながら幾度も再録された。

 《キッカー》呪文を唱える時、マナを多く支払う事でより大きな恩恵を受ける可能性を与えるカード。プレイ上の可能性も大きな広がりを見せるが(だから、キッカーの素の能力はその機能の強さによっては相当抑えて調整されている)、そのデザイン上の自由度は余りにも大きい。その余りの自由度の大きさに1つの危惧と疑念を持ったが、マローがGDS2に関する記事でその疑問に答えてくれた。今キッカーには、『それよりもう少しよい』というデザイン上の足枷がはめられている。

 《賛美》《感染(萎縮)》戦闘に直接関与するこの能力は、クリーチャーの制作の幅をも大きく広げる事となった。《最後のトロール、スラーン》のデザイン・調整は、《感染》なしにはありえなかっただろう。《賛美》はゲーム的にもフレイバー的にも優れた能力だが、既に《喊声》というフレイバー的に非常に優れたリメイクが制作されている。ゲームでどう働くか注視したい。

 《フラッシュバック》《蘇生》「呪文を唱え、墓地に置かれる」というごく基本的な動作に完璧に沿った《フラッシュバック》というメカニズムは、ヒキコモリ的でありながら大きな成功をおさめた。それを更に改良したと言えるのが《蘇生》ではないかと思う。クリーチャーが戦闘し、墓地に置かれる事は、マジックの中で余りにも自然な現象だ。
 

 『東方MWSのオリジナル・メカニズム~《霊依》』

 ようやく、東方の実装しているオリジナルのメカニズムを紹介できる。
 オリジナル・メカニズム《霊依(たまより)》は、(現在の所は)クリーチャー・カードが持つ起動型能力で、式神を憑ける事や、儚月抄に登場する巫女の神降ろし等の、クリーチャーに何かが乗り移る様なフレイバーを表したメカニズムだ。と、思われる(というのも、筆者は霊依のデザインに関わっておらず、考案時の情報が余り無いのだ)。
 
 ルール的には、正確には把握していないが以下の様な記述になるはずである。
 
・702.X 霊依/Tamayori
 ・702.Xa 霊依は、霊依 能力を持つカードがプレイヤーの手札にあるときにのみ機能する起動型能力である。「霊依 [[[コスト]]]/Tamayori [[[コスト]]]」は、「このカードを捨てる,「[[[コスト]]]:クリーチャー1体を対象とする。それは、ターン終了時までこのカードのコピーになる。」を意味する。

 要するに、コストを払って霊依カードを捨てると、1ターンの間戦場にいるクリーチャー1体を捨てたクリーチャーに置き変えられる能力である。

 この能力は、デザイン・戦術・フレイバーの3面から、非常に幅広い可能性に満ちた能力である。デザイン面でも無数の創造的な空間与え、クリーチャーとして自然にデッキに入りながら様々な付加価値を提供し、フレイバーも担保する。
 その複雑さから、適切な調整がやや難しい事、エキスパンションにテーマとして上手く取り込んだデザインがまだ途上である事はあげられるが、それは本企画のこれからの課題であろう。
 この様に、自身がクリーチャーであり、かつクリーチャーの自然な運用に様々に干渉するという、本家と比べても創造的かつ野心的に思える良い能力だと感じるが、いかがだろうか。


 ……さて、2回にわたってメカニズムの考案とその失敗について書いて来ましたが、いかがだったでしょうか。純粋にプレイヤーの方には余りピンとこない内容だったかもしれません。
 この企画は、自由に自作カードを掲示板に投稿できます。1枚のカードの形に纏め切れない案や、セットに纏め切れないメカニズムでも、未完成とわかっていながらその貴重なアイディアの片りんを投稿する未完成投稿スレも存在します。
 本家MtGのメカニズムのアイディアも、一枚のチラシの裏に描かれたひらめきから議論が始まり、実装に耐えるまでのものが作られると聞きます。この企画に触れ、「カードを作ってみたい。」と少しでも思われた方に、この文章が自分のアイディアを考える一助になれれば幸いです。
 
 次回からは、オリジナル・メカニズムに絡めたセット制作についても書いていってみようかと考えております。骨組みから肉付け、カラーパイからレアリティによる事まで、1つ1つ纏めていけたらと考えていますので、カード1枚1枚を考えるには、より実践的な内容になるかもしれません。これを読まれた方のアイディアが、収録されるカードに活かされる事を祈って書いていきたいと思います。
 では、ここまでお読みいただきありがとうございました。偉大なる本家MtGの研究開発・デザインに携わる方々と、霊依を考案した方(もしくは方々)に、敬意を表しつつ、また次の機会に。
 

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