2011/02/02

新メカニズムのお話~その1

絵描き兼ピッカーのJade.です。ビルディング、プレイングについては甚だしくカジュアル未満の私。
私の投稿では、カードの能力や評価は他の方にお譲りするとして、二次創作オリカ企画としては重要な、デザインについての事を、本家のコラムっぽく徒然書いて行こうかと考えております。(長さも本家のコラム並みだ。)通常のプレイヤーの方の御期待には添えそうもございませんが、よろしくお願いいたします。
といっても、私がMtGのオリジナルカードを考え始めたのは、この企画に出逢ったちょうど1年ほど前の事。デザイン、開発について勉強し始めたのはもっとずっと最近の事ですが、そのような浅薄な知識に基づいた事で宜しければ、デザインを志す方、私の無知を正そうと手ぐすね引いておられる方、どうぞ読んでやってください。



『新メカニズム』

MtGのセットは、その世界やそこで起こっている事、存在する要素を、カラーパイ別に5色に分類し、レアリティや各色内で割り当てられた機能によって切り取っている。それらが、その物語ののぞき窓のようにデザインされている。
それは、一貫したシステマティックな秩序と機能を持つ洗練されたカードゲームであると同時に、それによって表現されるゲーム的、また物語的アイディアをテーマとして表現した芸術作品でもある。
これはかなりヴォーソス的な目線での評価だと思われるかもしれない。そんなものはカードを作るのに関係ないと思われるかもしれない。しかし、そうではない。小さな子どもが、毎日食卓にご飯が並ぶ理由としての、自らの父母の激務について殆ど知らない様に、表には出ないだけでとても大切なことなのだ。

どんなものにも軸があり、その部品がある。本家開発部、デザイン部のコラムの中でも特に重要な物がいくつもあるが、その中でも、セットのもつそういう部分について触れた記事があった。
『セットのテーマがあれば、マイナーキーワード(またはメカニズム)を用いてもよい。』本企画の逆牢名主こと画蔵さんが口を酸っぱく主張していた事だ。ではマイナーキーワードとは何か。それは、拡張セットの世界の軸になり部品になる、その世界の特色を表現するマジックの新しいメカニズムの事だと言えるだろう。

MtG翻訳のビッグネーム・アイシャ女史が、ヒキコモリ的メカニズムと訳したメカニズムの概念は、『毒』がMark Rosewaterの魔手によって再び現代蘇った事に伴って昨年、本家のコラムにて現在進行的に語られる事になった。
ヒキコモリ的の意味を端的に纏めると『それ単体でしか使えないメカニズム』と評された。自己依存的なメカニズムだ。
例えばかつての毒がそうだった。「彼は毒である。だから?」その先に、周囲の友人たる他のカード達は、何も答えを見いだせなかった。毒は毒。それだけだった。つまり、毒はマジック・ザ・ギャザリングというカードゲームを構成する一員として機能していなかったのだ。

マジックとは、何だ?
デッキを組み、シャッフルして、ダイスを振ってゲームは始まる。何かわからない手札を7枚引いて、土地を出し、呪文を唱える。ターンが回ってきたら、パーマネントをアンタップし、アップキープを経て、何かわからないカードを引く。クリーチャーで攻撃する前後に、1ターンに1枚限り許された土地を出したり、それをタップしてマナを引きだし、さらなる呪文を唱えるかもしれない。他のパーマネントの能力を、起動するかもしれない。誘発されるかもしれない。唱えられた呪文や破壊されたパーマネントが墓地へ積み上げられていき、徐々に互いのライフが削られて行く。

これだけ書いても、既に私の脳裏にはエキサイティングなマジックのゲームが、ありありと想像されている。しかし果たして、この流れの中に『毒』は存在していただろうか? 答えはノーだ。毒は、マジック・ザ・ギャザリングのゲームで行われる行動に、全く関連していないのだ。

それを、何とかマローがマジックたらしめようとして行った努力の結果、彼は『ミラディンの傷跡』のリリースを成功裏に終わったと評価した。
彼は、毒というアイディアが実質的に成功だったか失敗だったかで、すべてを評価しなかった。実質的失敗は、結果の1つとして処理し、それに含まれていた失敗の理由と、他の可能性を分析した。その結果、そのアイディアに足りなかった事、失敗した部分から、今後に活かせる教訓を得た。
また、そのアイディアのエキサイティングな部分を活かし、マジックと仲良くさせる方法を考えた。こう言ったことの積み重ねが、マジックの新しいメカニズムに必要とされる事。マジックが新しい仲間を受け入れるかどうかの審査基準を、描き出していくのだろう。
その努力の結果、萎縮というメカニズムの一定の成功を受けて、毒は、晴れてマジックの仲間入りを果たしたのだ。(これでも、私個人は毒がややパラサイティックな部分を残していると思っている。人間はだれしも完璧じゃない。それが作り出す機能もまたそうだ。だが、完璧じゃない物はすべて駄作だと考える事は、まったく賢明じゃない。)

『東方の新キーワード』

我々の例を見てみよう。先頃話題に上がった《急襲》はユニークな能力だった。
『ライブラリーを探している間に、そのカードを手札にあるかのように唱えられる。』
という感じの、本家のたった1枚のレアカードに存在したこの能力を調整し、キーワード化した能力だ。しかし……他人のデザインに向かって失礼なようだが、率直な感想を書く事が制作者への礼儀だと私は思っている。制作者にはむしろ、これは称賛だと受け取ってほしいのだが、新キーワードとして採用できるものではなかった。

明白な理由がいくつかある。上にあげたマジックの流れの中に、『ライブラリーのカードを探す』事が入っていないからなのだが、整理して語ろう。
断わっておくが、これは《急襲》というアイディアをくさす目的で書くのではない。本家と同じ様に、その斬新なアイディアを称賛し、それから得られる利益を最大限に活用する為の分析だ。

『最初の理由:ゲームにおける強さ。』

マジックは、言うなればカードを使って、この基本的なゲームの流れから逸脱した行動を取る、いわば様々な『不正行為』を働き相手より優位に立つカードゲームだ。
結論から言ってこのメカニズムは、それを成立させる不正行為ともども、強力すぎる
マジックの大前提として、『最初の手札と、次に引くカードがわからない。』という事があるのは、本家にも紹介されていた。Mark Rosewaterが初めてデザインに参加した時、彼のアイディアは失敗に終わった。彼の『リソースを払い条件を満たせば、最初の手札を当該カードに決定できる』というアイディアの失敗と教訓にまつわる貴重な資料は、彼の語る所を見てほしい。デザインにおいて大切な事柄が詰まっている。

お手を拝借!|マジック・ザ・ギャザリング(公式翻訳記事)

曰く、確実に手に入るカードをデザインする事は余りにも強すぎた。それは、ドローの無作為性によって、カードの吟味からデッキの構築を通じて始まる、このカードゲームを成り立たせている「無作為性という秩序」のすべてを破壊した。
そして現在エターナル環境で、引きたいカードを引く確率を2倍に高める『教示者』と呼ばれるカード群の一部もまた、使用が制限されている。また、青のライブラリーを掘り下げるカードの調整の変遷も、これと近い事がいえるだろう。
ひとたび《急襲》が機能する瞬間に何が起こるか。ライブラリーの《急襲》を持つカード全てが『最初から手札にあった』かの様に機能し始める。何種類もの《急襲》カードがある環境で、果たして、4-60枚制限という秩序の中で、デッキを構築する意味があるのだろうか。限定戦における40枚制限や、レアリティの意味は? もはや、ゲームの前提が成り立っていない事がわかる。
このことの重要性は、GDS2の選択問題にも取り上げられた。

『次の理由:デザインをMtGに参加させるシステム的な問題点』

《急襲》は、前述のように、サーチカードに依存したメカニズムだ。サーチカードは強い。強い故に、3つの弱点を持っている。

「繰り返しできない」
「それしかできない」
「今しかできない」

第一に、繰り返せない。これは、フラッシュバックやスレッショルド、マッドネスを成り立たせた共鳴者・カードが好対照と言えるだろう。1枚のカードが、幾度も使える事。それが出来るカードが、沢山手に入る事。これが、何かに支えられる大きなメカニズムの条件だ。

第二に、それしかできない。例えば、アンコモン以上に存在する教示者系カードは、その強力な効果故に、1枚のカードでそれしか行わない。これはアンコモン以上のカードの特徴とも言えるが、先にあげたゲームの本筋を逸脱するほど、こういう特徴がある事が多い。ゲームの本筋に自然に含まれている事に依存する事が、何かに支えられる大きなメカニズムの条件だ。

第三に、上の二つにも関連するが、「今しかできない」。繰り返し、それしか、でもかなりの制限だが、さらに「今しかできない」。基本的に唱えた瞬間しかサーチは行われない。《急襲》は強力故に、コストとして多くのマナを支払わなくてはならない様に書かれているだろう。サーチを行う事に加えて《急襲》コストを支払う事は、果たして現実的だろうか。そうだ、《急襲》はサーチに依存しているにも関わらず、それに噛み合っていない。

この三つの事からわかる事。《急襲》が借り出そうとしたサーチというメカニズムは、マイナーキーワードを支えるには繊細すぎるメカニズムなのだ。

『最後に:レアリティ決定の指標』

レアリティについて今回の話題に近い基準だけを抜き出して言えば、コモン・カードの機能は、基本的に他のカードによる『不正行為』によって作られた『特殊な状況』に依存できない。限定戦でお目にかかる回数を考えれば理由は明白だろう。
それに対し、アンコモンは、他のカードが作る二次的な状況に依存できる。教示者は、あくまでライブラリーにさがしたいカードがあって初めて機能する、二次的な状況依存のカードなのだ。
レアは、そのアンコモン等が作り得る複雑怪奇な状況にも対応できるようデザインされる事がある。限定戦のゲームの攻防・その構造を想像すれば理解に難くないと思うが、レアリティにはそういう指標もある。
本家《急襲》カード《氷河跨ぎのワーム/Panglacial Wurm》のレアリティは、「なんとなく変なカードだから」という印象論で決められたのではないはずだ。きちんとした、ゲームのメカニズムに基づいて決定されているのだろう。ここで、《急襲》がレアの能力である事がわかる。

そのセットの世界観を表すマイナーキーワード。その役割を担おうとデザインされた《急襲》だが、その能力はレアカードの、それも極めて少数しか持ち得ない事がわかる。その世界へ入って体験する遊びである限定戦で、それはマイナーキーワードとして機能しない。

かくして、生息許可も、生息条件も、生息理由も奪われてしまった《急襲》だが、最初に、このアイディアをくさす目的ではないといった。その責任を取ろう。《急襲》のアイディアの中から、評価に値するエキサイティングな部分を取り出す試みをしようではないか。そのために、まずそれぞれの理由に反論を講じ、生き延びる術を探してみよう。

『最初の理由:強すぎる』
《急襲》は、余りにもゲームの秩序を破壊しつくしてしまう。ならば、自重させてはどうか。

例えば、カードを失うことなく(《急襲》は、大量の手札を増やすどころか、それを用いても手札を消費していない!)利益を得られるキーワード能力に「予見」がある。
絶対の正義である大判事を擁するラヴニカの立法府、アゾリウス評議会のこの能力は、限られたタイミングにそのカードを予見コストを支払う事で、手札からそのカードを公開し、主にそのカードを唱えた時に比べ小規模な影響をゲームに与える事が出来る。
また、手札以外から唱えられるカードの代表としてフラッシュバックと蘇生がある。中でも蘇生は、クリーチャーの最も自然な運用法(というより、MtGの自然なゲームの流れ)である、攻撃を、「蘇生したターンに一回だけ行う」という制限を課している。
いずれにせよ、ライブラリーが全て手札になるという状況は解消できないが、急襲起動時のカードの機能制限が、調整に一縷の望みを抱かせはしないだろうか。

『次の理由:機能させづらい・レアリティの問題』

アンコモン以上の、ゲームの横道にそれるカードに依存するという致命的欠点が挙げられた。しかし、実はコモンでも『探せる』カードがある。それは、緑の基本土地サーチや、白の自己サーチクリーチャーが有名だ。
《不屈の自然/Rampant Growth》、所謂ランパンに代表される緑の土地サーチは、それだけで緑の基本的なカラーパイの1翼を担っている。
さらに、白のコモンの自己サーチクリーチャーは、これも白のカラーパイと言えるだろう。
紅魔郷では、レミリアやフランドール(やっと東方キャラの名前がいえた!)の分身である、大量のコウモリが飛び交う黒にもフレイバー的に可能かもしれない。
緑は前例はあるが厳しい。美鈴が二次創作で門番隊と表現される妖精を呼び寄せている3面ボスのフレイバーは、明らかに白の役割だ。しかし、この能力は小さなコモンの同種クリーチャーの展開という自然な流れの中で行われる。教示者の様に、ゲームの横道にはそれない。

この二つのアイディアを組み合わせる事で、どの程度の反論が出来ただろうか。
最初の理由については残念ながら根本解決には至らなかった。これを解決する最後の手段として、デックに入る枚数自体を制限する事があげられる。即ち、環境に1枚だけそのカードを投入する事だ。

次の理由については、結局コモンにはそれを下支えするカードはほんの2~3色にそれぞれ1種類ずつしか採用できないだろう事がわかった。これでは、限定戦・レアリティの関係含め、アンコモンに《急襲》を持たせる事は厳しいだろう。

結果として、《急襲》は「《急襲》を起動する事によって発揮される本来の機能を制限する」「レアのごく少数のカード(例えば2~3色サイクル)に採用する」という二つの制限を軸に、『キーワード』ではなく、『フレイバーを表す特徴的な能力』として実装が可能ではないかと考えられる。
これらの制限を取り払うには例えば、《氷河跨ぎのワーム/Panglacial Wurm》は、
・レアのたった一枚がその能力を持つ事。
・あの莫大なマナ・コストを「払えるものなら払って見ろ」と足かせにする事。
・土地のサーチ・高速展開が可能な緑のカードという事。
これらによって、ライブラリーが手札になる問題・強すぎる問題・扱い使いにくい問題をすべてクリアしていた。
以上の事から、紅魔郷に《急襲》のアイディア採用を実現する為に、

サーチが容易かつ低マナ域にシンプルなカードを作り易い:(1位白・2青・3黒)
サーチが容易かつマナ加速が容易:(1位緑)
フレイバー的に適している:(1位咲夜・2ルーミア・3大妖精・4フランドール)
フレイバー的に適していない:(1位レミリア・1位パチュリー・2小悪魔)
といった条件を踏まえ、白と青を咲夜の色として、その能力として一部のレアとひょっとしたらアンコモンに加えられるかもしれない。なお、青については魔書使いパチュリーが、低コストのサーチに口を利いてくれるのではないかと期待している。そういうキャラクター同士の持つイメージ的メカニズムのシナジーも、カードゲームとして魅力的ではないだろうか。

私達は、本家MtGの『カード』を結果として目にする。
私達がデザインを考えるには、その『カード』という結果が、こういった意思決定プロセスを経て、良いアイディアからよくない部分を目いっぱい削ぎ落す過程を経て、我々の目の前に登場している事を意識し、それをさかのぼる努力をする必要があるだろう。
そして、それら削ぎ落された部分のアイディアも、形として残された功績と同じ様に私達に貴重な知見を与えてくれる。作った人間も、それを評価する人間も、失敗を決して軽んじてはならないし、何かをやろうとして失敗した人間を貶してはならない。むしろ、称賛されるべきだ。失敗する事自体が功績なのだから。
何か面白いアイディアが思いつけば、たとえそれが致命的な欠陥を抱えているとわかっていても、どんどんと発表してほしいと思う。
それは、その致命的欠陥を気付いていない誰かのヒントになる。その致命的欠陥を、取り除くアイディアが生まれるかもしれない。本家の制作チームたちが、そうやって議論をして、新しいセットを作っていくように。
今の自分の主張は、何か勘違いしているのではないか。そんな事で萎縮する必要はない。勘違いは、指摘されたら直せばいい。この文章だってそうだ。失敗や思想の変節は、制作においては歓迎されるべき事だ。

……さて、長くなりましたが、このオリジナルキーワード能力についての記事はまだ続きます。本家の成功と失敗、それに本企画のもう一つの没キーワードを次回に書く予定です。失敗は、分析し、裏返せばそのまま成功となる。そこでは、他の失敗の事例や、今回の事例に対し、如何にそれを裏返すか、本家の例を語っていく事になるでしょう。
願わくば、この一連の記事がマジックのオリジナルセット制作の一助となり、本企画内で、新たなオリジナルキーワードやオリジナルメカニズムを生む切っ掛けなってくれれば幸いです。
では、ここまでお読み頂きありがとうございました。急襲を考案してくださった現紅魔郷担当者様に感謝しつつ、また次の機会に。

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